Tokyo Cantat 2023 やまとうたの血脈XII  地球へのバラード~傷みの泉から祈りの声を~(5)

tooth-o.hatenablog.com tooth-o.hatenablog.com tooth-o.hatenablog.com tooth-o.hatenablog.com この演奏会の全体を思い返すと、まずは演奏のレベルの高さが印象に残った。不満も多々書いたが、それもまずは演奏が高水準で成立した上での話であって、その…

Tokyo Cantat 2023 やまとうたの血脈XII  地球へのバラード~傷みの泉から祈りの声を~(4)

tooth-o.hatenablog.com tooth-o.hatenablog.com tooth-o.hatenablog.com 『地球へのバラード』より『私が歌う理由』『沈黙の名』『夕暮』 (Chœur Clarté) コンサートの表題にされた曲集より3曲が、冒頭と休憩後の最初に演奏された。ステージとは別に、2階…

Tokyo Cantat 2023 やまとうたの血脈XII  地球へのバラード~傷みの泉から祈りの声を~(3)

tooth-o.hatenablog.com tooth-o.hatenablog.com 『C₆H』 (チェロ:鈴木皓矢) 丘山万里子による監修の価値は Tokyo Canta に器楽の作品を挟み込んだところにあったと思う。チェロのための作品『C₆H』は以前「未来に伝える三善晃の世界Ⅲ」で聴いたことがあ…

Tokyo Cantat 2023 やまとうたの血脈XII  地球へのバラード~傷みの泉から祈りの声を~(2)

tooth-o.hatenablog.com 『王孫不帰』 (松原混声合唱団男声+早稲田大学コール・フリューゲル 指揮:清水敬一 ピアノ:小田裕之 打楽器:加藤恭子/横田大司) この曲についてはそれだけでも大変なことというのは承知しているのだがそれでも、きっちりと歌…

Tokyo Cantat 2023 やまとうたの血脈XII  地球へのバラード~傷みの泉から祈りの声を~(1)

続いて2023年5月4日(木)18:00開演の、三善晃の作品によるコンサート。 混声合唱のための「地球へのバラード」より(1983) 女声合唱のための組曲「月夜三唱」(1965) 混声合唱と二台のピアノのための 歌集「田園に死す」(1984) 男声合唱のための「王孫…

東京六大学混声合唱連盟 第65回定期演奏会

2023年5月3日(水)16:00開演 青山学院大学グリーンハーモニー合唱団 The Shepherd's Carol (Bob Chilcott 作曲) Home Sweet Home (Henry BISHOP作曲 Bob Chilcott 編曲) Aka-Tonbo (山田耕筰 作曲 Bob Chilcott 編曲) The Isle Full OF Noises (Bob …

『五月』と『いづかたに』

「グリークラブ・ソングセレクションⅠ」に収録された2つの男声合唱曲。作曲家が作品として扱わなかった曲が変に愛唱されるようになるとすればあまり良いこととは思わないが、それはそれとして。 『五月』と『いづかたに』はともに、東京男声合唱団の1964年5…

三善晃と『五月』の詩

音楽之友社の「グリークラブ・ソングセレクションⅠ」に三善晃の男声合唱曲『五月』が収録されている。早稲田大学コール・フリューゲルの演奏を youtube で聴くことができる。 グリークラブ・ソングセレクションⅠ - 音楽之友社 五月 - YouTube 「日本男声合唱…

『田園に死す』について 阿部亮太郎氏のツイート

だいぶ前のことになるが、作曲家の阿部亮太郎氏が授業で『田園に死す』を取り上げているとツイッターに書いていた。 ここ数年の、後期の楽曲分析の授業。三善晃《田園に死す》を取り上げている。寺山修司の短歌5首からなるこの曲、どう作曲者が読み取ってそ…

曲集『街路灯』のこと

tooth-o.hatenablog.com 「乖離」というのも日頃使わない言葉だが、これは曲集で扱われた詩に共通して現れるものでもある。 「なくしてしまったふるさと」(『マルメロ』) 「幼年を失くしたもの」(『雲』) 「ふたたび/めぐりあえなくなった日」(『オル…

『街路灯』のこと

今年はコンクールの課題曲になったこともあってか、『街路灯』の話題をいくつか見かける。そのこと自体は良いのだが、詩の言葉の現れる順番が、のような話が出てくるのは国語力的にいかがなものかという気持ちになる。「みんなすてよう/めぐりあわないため…

三善晃の『空に小鳥がいなくなった日』について(2)

tooth-o.hatenablog.com 前回引いた4行の前に、三善晃はこのように書いている。 谷川俊太郎さんの詩。 初めから、その詩語のなかにいた。 当初、組曲自体のタイトルを『空に小鳥がいなくなった日』としていたことから、ここで言っている「詩」も『空に小鳥が…

『Agnus Dei』(Samuel Barber)

自身の歌い手としての活動は全く貧しいものだが、それでも長く続けているとこのような曲を演奏する機会が巡ってきたりもする。が、酸欠で知性が飛ぶのか、しょうもない数え間違いが練習では頻出している。対策を兼ねて考えていた内輪向けの簡易的な解説を書…

『光よ そして緑』(上田真樹『終わりのない歌』)

所属している団体で、少し歌ってみるという機会のあった曲。 ピアノの低音が七連符と六連符で揺れる木漏れ日を描き、合唱では十六分音符が光を示す。光の十六分音符は「割り切れる」という感覚から光の直進性までを表現し、三連符はそれが遮られる様子を表す…

三善晃の『空に小鳥がいなくなった日』について(1)

三善晃の『空に小鳥がいなくなった日』は、ここまで聴いてきた4曲とは違った感触の音楽になっている。詩の世の中に対する批判性が、林光では荒野に踏み出すような厳しさとなり、平吉毅州、松下耕、信長貴富の3つの合唱曲では三様の絶望の未来として描かれる…

1970年代と2010年代の『空に小鳥がいなくなった日』

ここしばらくで林光、平吉毅州、松下耕、信長貴富と、都合4人の作曲家による『空に小鳥がいなくなった日』を聴いてきた。これは単純に触れやすかったからではあるが、振り返ると林と平吉の曲は詩とともに1970年代の作品であり、松下、信長の作品は2010年代の…

『空に小鳥がいなくなった日』3曲

平吉毅州、松下耕、信長貴富による『空に小鳥がいなくなった日』を聴いてみた。 詩について 『空に小鳥がいなくなった日』の詩を概観すると、人と世の中への悲観的な視線に対して、外形的には使われる言葉は平易であり音としても柔らかい。このことが、詩に…

林光の『空に小鳥がいなくなった日』

個人的には『空に小鳥がいなくなった日』と言えば三善晃の『五つの願い』なのだが、『五つの願い』には単純には肯定し難い印象があり、またその中の『空に小鳥がいなくなった日』については何となく捉えづらい、率直に言えばよく分からない、という感じがあ…

『夏』の詩のこと

『虹とリンゴ』の第2曲『夏』の詩の話だが、この詩に現れる兵器の印象が1945年の水準ではないのではないか、というのが何となく引っかかっていた。このあたり全く不案内であり知りたいという気もなかったので放置していた。なので、思い付きに過ぎないことで…

『地球へのバラード』の音取りについて

合唱をする人には当然だが、合唱のステージではピッチパイプなどを使って歌い出しの音を取る。ピアノ付きの曲で合唱が最初から歌い出す場合などはピアノを使う。指揮者が音叉で基準の音を取ってそこから開始の音を鳴らし、合唱はその音から歌い出す、といっ…

『絶え間なく流れてゆく』と原民喜『鎮魂歌』(3)

tooth-o.hatenablog.com tooth-o.hatenablog.com 「僕」は妻を亡くしてから、現実に生活する人々の背後に断末魔を、「救いはないのかという嘆き」を感じ取るようになり、原爆はそこから現実の生活を剥ぎ取った。そうした「剥ぎとられた世界」の体験から、現…

『絶え間なく流れてゆく』と原民喜『鎮魂歌』(2)

tooth-o.hatenablog.com 前回乱暴にまとめた『鎮魂歌』だが、もっと強引には 「僕」にとっての世界は「剥ぎとられた世界」であり、「救いはないのかという嘆き」が認識の大もととなっている。 現実が剥ぎ取られているため何ごとも不確かであるところ、「嘆き…

『絶え間なく流れてゆく』と原民喜『鎮魂歌』(1)

『廃墟から』の楽譜の前書きには、次のように書かれている。 曲名は『鎮魂歌』の冒頭の一文「美しい言葉や念想が殆ど絶え間なく流れてゆく。」から採ったもので、作曲の着想は主にこの『鎮魂歌』の文体から得ている。私は『鎮魂歌』について、フラッシュバッ…

『柳河風俗詩』

それほど興味もなかったのだが、急に所属している合唱団で全曲さらってみるということになった。そうしてみると、今さらだが思っていたよりも良い曲だったのだなと見方が改まった。特に3曲目と4曲目はやや雑にしか聴いてこなかったので、実際に歌ってみると…

『白く』の詩について

『白く』について、『遠方より無へ』に作曲者による文章が載せられている。 左川ちかの詩に不思議な絶望がある。 失った声 向ふ側の音 見えない花 そして もう近くに居ない夏 しかしそれは艶冶な装いにくるまれ ほとんど 誇り高きものの姿をして居る 微量の…

『響紋』の後

『響紋』は1984年に初演されたのだが、同じ年に『田園に死す』が、次の年に『三つの夜想』が作曲されている。またその次の年には『三つの時刻』の復元版が初演となっている。 この3曲をことさらに取り上げるのは、これらが三善晃自身の過去への振り返りとな…

キアスム[chiasme]

2022年3月17日 彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール 柳嶋耕太(指揮) 南方隼紀(指揮(『O sacrum convivium!』)) 渡辺研一郎(ピアノ) gemma(女声合唱) in high glee(男声合唱) 曲目 Eer Bote (Valentin Silvestrov) 渡辺研一郎 Regina angelorum…

三善晃の1962年の作品

CD『地球の詩』は三善晃の60歳を記念した栗友会のコンサートのライブ録音で、日本合唱曲全集に採られたのもこの音源ではないかと思う。ブックレットに載せられた三善晃の文章には、次のようにある。 生まれた1933年から60年経ちましたが その途中 30歳になる…

『やわらかいいのち三章』

『やわらかいいのち三章』は東京混声合唱団の演奏によるCD 『三善晃・谷川俊太郎 作品集 木とともに 人とともに』 - tooth-o’s diary があったが、あまり聴かずに来ていた。また CANTUS ANIMAE の演奏会 CANTUS ANIMAE 第21回演奏会 - tooth-o’s diary を聴…

CD『三善晃の世界 CANTUS ANIMAE×Choeur Chene×Combinir di Corista×MODOKI 』

4つの合唱団によるジョイントコンサートがCD化されたので購入した。近場での開催であれば聴きに行ったのだが。 正直なところを言えば選曲にそれほど魅力を感じておらず、演奏の技術的な負担についてはチャレンジングでも曲目としては守りに入ったという印象…