『柳河風俗詩』

それほど興味もなかったのだが、急に所属している合唱団で全曲さらってみるということになった。そうしてみると、今さらだが思っていたよりも良い曲だったのだなと見方が改まった。特に3曲目と4曲目はやや雑にしか聴いてこなかったので、実際に歌ってみると今まで気づかなかったような表情があり面白く感じられた。

『かきつばた』は、歌い手がそれぞれに美しいイメージを持ちながら、実際の演奏はまるでそのようにできない、というような奇妙さがある。動画でいくつか聴いてみたが、声が良く音程が安定しユニゾンが揃っている、までが限界でその先を聴かせてもらえない。『梅雨の晴れ間』はリズムとフレーズ感と言葉の表情のバランスをどう取るかが問題だが、駆け足足踏みのような演奏が多い気がした。その結果「廻せ 廻せ 水ぐるま」の印象ばかりが残り、中間部で起きていることの見通しが悪くなる。この両曲については、演奏上の可能性がいくらでも残されていると思える。

対して、前半の2曲は「もういいか」という気がする。『柳河』は以前に触れたことがあるが、悲痛な表情を強調するのは作曲者の意図からは離れる可能性があり、だからと言って今さら観光客の呑気な歌にできる訳もないあたりで、適当なところで纏めるくらいにならざるを得ない。『紺屋のおろく』はテンポの設定や細部の表情で聴かせられる要素は色々ありそうではあるが、どうも曲そのものに「だから何だ」という印象がある。この曲を豊かに美しく歌っても全曲としてまとめようがないのではないかと思う。

演奏動画などに当たってみても、この組曲は思いの外探求されていない要素があるように感じられる。多田武彦のファンは多いようでいて、案外やることは行き届いていないのではないか。