2022-01-01から1年間の記事一覧

『光よ そして緑』(上田真樹『終わりのない歌』)

所属している団体で、少し歌ってみるという機会のあった曲。 ピアノの低音が七連符と六連符で揺れる木漏れ日を描き、合唱では十六分音符が光を示す。光の十六分音符は「割り切れる」という感覚から光の直進性までを表現し、三連符はそれが遮られる様子を表す…

三善晃の『空に小鳥がいなくなった日』について(1)

三善晃の『空に小鳥がいなくなった日』は、ここまで聴いてきた4曲とは違った感触の音楽になっている。詩の世の中に対する批判性が、林光では荒野に踏み出すような厳しさとなり、平吉毅州、松下耕、信長貴富の3つの合唱曲では三様の絶望の未来として描かれる…

1970年代と2010年代の『空に小鳥がいなくなった日』

ここしばらくで林光、平吉毅州、松下耕、信長貴富と、都合4人の作曲家による『空に小鳥がいなくなった日』を聴いてきた。これは単純に触れやすかったからではあるが、振り返ると林と平吉の曲は詩とともに1970年代の作品であり、松下、信長の作品は2010年代の…

『空に小鳥がいなくなった日』3曲

平吉毅州、松下耕、信長貴富による『空に小鳥がいなくなった日』を聴いてみた。 詩について 『空に小鳥がいなくなった日』の詩を概観すると、人と世の中への悲観的な視線に対して、外形的には使われる言葉は平易であり音としても柔らかい。このことが、詩に…

林光の『空に小鳥がいなくなった日』

個人的には『空に小鳥がいなくなった日』と言えば三善晃の『五つの願い』なのだが、『五つの願い』には単純には肯定し難い印象があり、またその中の『空に小鳥がいなくなった日』については何となく捉えづらい、率直に言えばよく分からない、という感じがあ…

『夏』の詩のこと

『虹とリンゴ』の第2曲『夏』の詩の話だが、この詩に現れる兵器の印象が1945年の水準ではないのではないか、というのが何となく引っかかっていた。このあたり全く不案内であり知りたいという気もなかったので放置していた。なので、思い付きに過ぎないことで…

『地球へのバラード』の音取りについて

合唱をする人には当然だが、合唱のステージではピッチパイプなどを使って歌い出しの音を取る。ピアノ付きの曲で合唱が最初から歌い出す場合などはピアノを使う。指揮者が音叉で基準の音を取ってそこから開始の音を鳴らし、合唱はその音から歌い出す、といっ…

『絶え間なく流れてゆく』と原民喜『鎮魂歌』(3)

tooth-o.hatenablog.com tooth-o.hatenablog.com 「僕」は妻を亡くしてから、現実に生活する人々の背後に断末魔を、「救いはないのかという嘆き」を感じ取るようになり、原爆はそこから現実の生活を剥ぎ取った。そうした「剥ぎとられた世界」の体験から、現…

『絶え間なく流れてゆく』と原民喜『鎮魂歌』(2)

tooth-o.hatenablog.com 前回乱暴にまとめた『鎮魂歌』だが、もっと強引には 「僕」にとっての世界は「剥ぎとられた世界」であり、「救いはないのかという嘆き」が認識の大もととなっている。 現実が剥ぎ取られているため何ごとも不確かであるところ、「嘆き…

『絶え間なく流れてゆく』と原民喜『鎮魂歌』(1)

『廃墟から』の楽譜の前書きには、次のように書かれている。 曲名は『鎮魂歌』の冒頭の一文「美しい言葉や念想が殆ど絶え間なく流れてゆく。」から採ったもので、作曲の着想は主にこの『鎮魂歌』の文体から得ている。私は『鎮魂歌』について、フラッシュバッ…

『柳河風俗詩』

それほど興味もなかったのだが、急に所属している合唱団で全曲さらってみるということになった。そうしてみると、今さらだが思っていたよりも良い曲だったのだなと見方が改まった。特に3曲目と4曲目はやや雑にしか聴いてこなかったので、実際に歌ってみると…

『白く』の詩について

『白く』について、『遠方より無へ』に作曲者による文章が載せられている。 左川ちかの詩に不思議な絶望がある。 失った声 向ふ側の音 見えない花 そして もう近くに居ない夏 しかしそれは艶冶な装いにくるまれ ほとんど 誇り高きものの姿をして居る 微量の…

『響紋』の後

『響紋』は1984年に初演されたのだが、同じ年に『田園に死す』が、次の年に『三つの夜想』が作曲されている。またその次の年には『三つの時刻』の復元版が初演となっている。 この3曲をことさらに取り上げるのは、これらが三善晃自身の過去への振り返りとな…

キアスム[chiasme]

2022年3月17日 彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール 柳嶋耕太(指揮) 南方隼紀(指揮(『O sacrum convivium!』)) 渡辺研一郎(ピアノ) gemma(女声合唱) in high glee(男声合唱) 曲目 Eer Bote (Valentin Silvestrov) 渡辺研一郎 Regina angelorum…

三善晃の1962年の作品

CD『地球の詩』は三善晃の60歳を記念した栗友会のコンサートのライブ録音で、日本合唱曲全集に採られたのもこの音源ではないかと思う。ブックレットに載せられた三善晃の文章には、次のようにある。 生まれた1933年から60年経ちましたが その途中 30歳になる…

『やわらかいいのち三章』

『やわらかいいのち三章』は東京混声合唱団の演奏によるCD 『三善晃・谷川俊太郎 作品集 木とともに 人とともに』 - tooth-o’s diary があったが、あまり聴かずに来ていた。また CANTUS ANIMAE の演奏会 CANTUS ANIMAE 第21回演奏会 - tooth-o’s diary を聴…

CD『三善晃の世界 CANTUS ANIMAE×Choeur Chene×Combinir di Corista×MODOKI 』

4つの合唱団によるジョイントコンサートがCD化されたので購入した。近場での開催であれば聴きに行ったのだが。 正直なところを言えば選曲にそれほど魅力を感じておらず、演奏の技術的な負担についてはチャレンジングでも曲目としては守りに入ったという印象…

『黒人霊歌集』

東京混声合唱団の演奏会のライブ配信を視聴した。委嘱作品の『歌詞のない歌』も楽しく聴いたが、そもそもの興味は三善晃の『黒人霊歌集』にあり、500円で聴けるなら、というくらいだった。 山田和樹のトークでも取り上げられていたように、ソプラノの高音が …