Tokyo Cantat 2023 やまとうたの血脈XII  地球へのバラード~傷みの泉から祈りの声を~(3)

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『C₆H』

(チェロ:鈴木皓矢)

丘山万里子による監修の価値は Tokyo Canta に器楽の作品を挟み込んだところにあったと思う。チェロのための作品『C₆H』は以前「未来に伝える三善晃の世界Ⅲ」で聴いたことがあったが、曲を十分に受け止めたとは言えない。今回も、音の良さとその動きの美しさは聴けたものの、全体の構成を見通すことができなかった。

聴きながら、三善晃はチェロに対して男性的なイメージを持っているだろうということを思った。それ自体は特段言い立てるようなことでもないのだが、三善晃男声合唱作品と比べるといくらか意味を持つ。チェロの作品に現れる男性性は男声合唱の曲よりも率直なものと感じられ、その一部はおそらく言葉をもたないことに依っている。

『交聲詩曲 波』

(合唱団樹の会/むさし野ジュニア合唱団「風」/杉並区立桃井第五小学校

 指揮:藤井宏樹 ピアノ:浅井道子/斎木ユリ)

演奏者はプログラムから拾っているが、童声パートの参加者については何か変更のアナウンスがあったと記憶している。

藤井宏樹と樹の会というと、『夜と谺』の圧倒的な演奏を思い出す。

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この時に購入した Ensemble PVD のCDも凄まじいものだったので、藤井宏樹の演奏への期待がかなり大きくなっていた。

一方、やはり藤井宏樹と樹の会による『波』の演奏も聴いたことがあった。

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気が付けば10年以上前のことで、この時の演奏も良いものではあったが、『夜と谺』の時ほど途轍もない、というものではなかった。そういう点では、不安とは言わないまでも期待のし過ぎも良くないとも思っていた。

実際の演奏はどちらかと言えば後者よりの印象だった。良い演奏だったが、「良い演奏だった」と冷静に思える程度でもあった。

藤井の指揮について、内面に音楽のイメージがあり、それが滲み出る部分と理知的、技巧的に処理している部分があるという風に感じる。技巧の部分を経由してその内面のイメージにまで届くと特別な演奏になるのだろう。『波』ではそのような求心性を童声に求められないところに難しさがあったのではないか。

唱歌の四季』

(栗友会合唱団 指揮:栗山文昭 ピアノ:浅井道子/斎木ユリ)

実はあまり期待していないステージだった。先の合唱団 響の演奏会の印象がそれほど良くなかったこと、また曲についても特段好んではいなかったことがあり、やや関心の薄い状態でいた。

始まってみると、演奏は何というか、特別なものだった。原曲はもともと簡素なもので、それらの歌のイメージはその簡素な曲を取り巻く記憶と生活から出来上がっているものなので、付け加わる音や転調や特別な表情などは過剰であり余計なものとして感じられる。が、この時の演奏にはそうした過剰さが一切感じられず、この曲集はこのままで全く正しい、という印象を受けた。