2020-01-01から1年間の記事一覧

『二つの祈りの音楽』の演奏いくつか

『二つの祈りの音楽』はとにもかくにも気になる曲ではあり、youtube に上がっているものなどいくつかの演奏を聴いてみている。それらについての印象を自分の関心に引き寄せて書いてみることにする。 CANTUS ANIMAE の演奏会で聴いたのが最初で、その時は特に…

『どきんどきん』について

『やさしさは愛じゃない』のことを暫く考えていた。この曲集については、表題曲の「じゃない」問題以外にはあまり語られていない気がしていて、実際どのように触れて良いかなかなか分からない。 「じゃない」問題、と言ったのは男声パートの歌詞は「やさしさ…

「いまだ首吊らざりし繩」

いまだ首吊らざりし繩たばねられ背後の壁に古びつつあり 三善晃の『歌集 田園に死す』での2首目の歌。気味悪い歌だが、三善晃自身の文脈からするならおそらく、背後の縄(を用意した時の自分の心情)が「まだ首を吊らないのか」と自分を責め続ける、というこ…

件のモノオペラ

書かれなかった作品の話をしてどうなるということではあるが、『歌集 田園に死す』の楽譜の序文で触れられている、書かれずに終わったモノオペラのこと。「胎児の自殺」という、ややショッキングな話だが。 昭和31年の冬、私はパリ郊外の僧院に起居して女声…

『地球へのピクニック』(3)

tooth-o.hatenablog.com 実際の譜面について少し見てみることにする。 前回触れた「ここにいて」からの部分では、4小節ごとに何ということもない風にして全音下に転調していく。ニ長調からハ長調への転調だけ調号が変わるのは、調号なしで書かれた部分が夢の…

『地球へのピクニック』(2)

tooth-o.hatenablog.com 今回多数の演奏を聴いてみたのは、この曲のいくつかの部分についてどのように歌われているかを確認してみたかったからだった。具体的には 29・30小節の下三声の「おまえのめはそらのあおをうつし」 33・34・35小節の「そまるだろう」…

『地球へのピクニック』(1)

ふと思いついて、『地球へのピクニック』の演奏を色々と聴いてみた。まず次のCD 合唱団OMPの1998年の演奏(CD『クレーの絵本/三善晃作品集4』) ハルモニア・アンサンブル(CD『地球へのバラード』) その他、youtube で Collegium Cantorum YOKOHAMA 慶應…

『二つの祈りの音楽』の楽譜を眺めて

『二つの祈りの音楽』については批判的な気分を持っていることを何度か書いてきた。とは言え人気のある曲でもあり、感動的なのも確かで、気になってもいる。それで楽譜を購入し、どんな様子か見てみることにした。特に結論のようなものはなく、気になったこ…

『三群の混声合唱体とピアノのための ぼく』について

普通に想像する場合、意識は死に到達しない。幽霊がいる、あるいは道端の小石に意識があるというのでなければ、意識があるなら生きているのであって、意識が死を捉えたとしてもその時はやはり生きているはずであり、ならば捉えたそれも実は死ではないという…

『三群の混声合唱体とピアノのための あなた』

『三群の混声合唱体とピアノのための あなた』は合唱連盟「虹の会」(成蹊大学混声合唱団、成城大学合唱団、武蔵大学合唱団リーデルクランツの3団体から成る合唱団体)のために書かれた作品。詩は谷川俊太郎の詩集『みみをすます』から採られており、三善晃…

終戦の日に三善晃を流してしまうという

2020年8月15日から1週間の限定配信で、『響紋』のピアノ・リダクション版が聴けるというので聴いてみた。 今日21時配信です。 https://t.co/zdx2L10PY9 — Giovanni Records・出版 (@giovannirecords) 2020年8月14日 とりあえずの感想として、『響紋』は『レ…

宗左近「鏡の雲」

三善晃自身も言及しているように、『詩篇』には「花いちもんめ」の歌詞があるのだが、これは宗左近の詩「鏡の雲」によっている。 「鏡の雲」を含む宗左近の詩集『縄文』は読んだことがないのだが、近所の図書館に『現代詩文庫127 続・宗左近詩集』があり、『…

「ある肖像」(『三つの夜想』)

『三つの夜想』、特に「ある肖像」については、長年聴き続けながら、ずっと捉えづらい感覚を持ち続けてきた。が、先日 youtube で St. Cecilia Vocal Creators の演奏を聴きながらふと、歌い始めの半音の上行をどのような声で聴きたいか、と想像してみたとき…

『柳河風俗詩』と『富士山』

tooth-o.hatenablog.com の続きのようなもの。今回は「多田武彦らしさ」について、違う方向から触れてみる。 『試論』では清水脩から多田武彦への指導についての話が大きく扱われていた。そこでも扱われていたが、清水脩と多田武彦と言えば『柳河風俗詩』に…

多田武彦の作品について

nihonshijin.blog2.fc2.com を読んで思うことの2つ目として、多田武彦の曲についての印象を書いてみたい。 以前にも書いた通り、多田作品への関心は薄く、触れた作品も多くない。組曲を通して歌った曲は数曲にとどまり、単曲を抜き出して歌った数も多田武彦…

『海の日記帳』

「こどものピアノ小品集」と付された、28曲から成る作品集。三善晃自身のピアノによるCDがあるのでかなり以前に購入し、楽譜も買ってしまった。とはいえピアノを習ったことがなく、ピアノの曲もあまり聴かないし知らないので、この曲集についても何が言える…

『無伴奏女声合唱のための かなしみについて』

三善晃は女声合唱のための曲も多数作曲しているが、無伴奏となるとかなり限られる。『かなしみについて』はそうした少ない例の内の一曲。 詩は、やや不快というか、「他人様の感情や人生をお手軽にまとめるな」という腹立たしさがある、と思う。また、個人的…

Ensemble PVD 『三善晃 宇宙への手紙』

しばらく前の録音になるが、以前にも少し触れたことがあるEnsemble PVD の『三善晃 宇宙への手紙』について。ライブ録音とのことで、曲目は 『子どもの季節』 『四季に』 『五つの日本民謡』 『宇宙への手紙』 (アンコール)『地球へのバラード』より「鳥」…

『三つの時刻』と『三つの夜想』

『三つの夜想』と『三つの抒情』との関係は三善晃自身の言葉や、3曲から成る女声合唱曲であること、初演団体の関係性などからよく語られるところだが、実際にはあまり踏み込んだ内容を見かけることがない。自分でもあまり見通しを立てられてはいない。 詩を…

『紀の国』

この曲を知っているのはほとんどたまたまで、これが『父のいる庭』という組曲の終曲であるというのもつい最近になって知った。例によっての多田作品への愛のなさである。 それなりに人気のある曲のようで、YouTube でも複数の演奏を聴くことができる。この人…

『三群の混声合唱体とピアノのための ぼく』の構成など

メモとして。 全体は次の表題のついた11の部分から成っている。 〈PROLOGUE〉 〈ぼくはうまれた〉 〈このほしに〉 〈もういいかい〉 〈それから〉 〈ぼくはあゆんだ〉 〈どこからきて〉 〈そしてそれらがすぎさった〉 〈ふたたびよるへと〉 PROLOGUEによるEP…

『無伴奏混声合唱のための After…』

tooth-o.hatenablog.com 信長貴富と東京大学柏葉会合唱団の取り合わせから、同団の委嘱作品である『After…』をyoutubeで聴き、また『廃墟から』と『After…』の楽譜を見てみた。 そうしてみていくつか思うこともあったので、その話をしてみたい。 柏葉会によ…

『絶え間なく流れてゆく』

先日の柏葉会による『廃墟から』が良かったので楽譜を購入した。特に気になっていたのは第一章『絶え間なく流れてゆく』の、「ギラギラ」等々の言葉による、頭がぐらぐらするような音の成り立ちだった。35小節、楽譜の区分では「D」となっているところからに…