『地球へのピクニック』(3)

 

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実際の譜面について少し見てみることにする。

前回触れた「ここにいて」からの部分では、4小節ごとに何ということもない風にして全音下に転調していく。ニ長調からハ長調への転調だけ調号が変わるのは、調号なしで書かれた部分が夢の世界であることの表現で、この間の転調は臨時記号で表されている。この転調が3回繰り返されて、「あけがたの」で3全音下がることになる。すると雑に言って♭が6つ増える(元が♯2つなので差し引き♭4つ)ことになり、元の調から最も遠い調になる。これは「遠いもの」の言葉を反映しているだろう。「よるを」の転調は「それを捨て」に対応してか、かなり遠い調に移っている。(こうしたことの内実は指揮者の先生方が詳しく分析しているはずなので、減るものでもあるまいし適当に公開して欲しいと思うのだが)

他の部分では、「ここへ」などについてかなり以前に

 

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 このように触れたことがある。冒頭のテノールによるFis-A の短三度音程は、各曲にそれぞれの文脈で取り上げられて、最後に『地球へのピクニック』で「ここ」としての意味が明らかにされる。その下のバスの動きについては、Cis-H-Cis-H-A が変形されて『沈黙の名』に現れ、その解決が『地球へのピクニック』で出現する。A-H-D から始まるフレーズの全体も、『夕暮』の「それは風でも」の部分のヴォカリーズで解決が予告され、さらにこれも『地球へのピクニック』で「お前を愛そう」の下のバスのA-H-Fis-E  から「ここでただいまを」のA-H-Fis-D-E と変化しながら現れ、最後の男声のフレーズ「ここへかえってこよう」のA-H-Fis-E-Fis-A に到達する。

素人目ながら、こうして見ていくほど曲は精密に書かれ、詩との関係も厳密であることが感じられてくる。『地球へのピクニック』は有名さと親しみやすさからアンコールなどで取り上げられることも多く、広く取り上げられることは喜ばしいが、それだけでは捉えきれない部分を多く持つとも言っておきたくなる。