『黒人霊歌集』

東京混声合唱団の演奏会のライブ配信を視聴した。委嘱作品の『歌詞のない歌』も楽しく聴いたが、そもそもの興味は三善晃の『黒人霊歌集』にあり、500円で聴けるなら、というくらいだった。

山田和樹トークでも取り上げられていたように、ソプラノの高音が Cis まで出てくる点はこの曲の特徴の一つだろう。以前に楽譜を見たことはあるが、こうした音域の広さや、動きの細かさ、入り組み方以外は、割合普通の曲のようでもある。

三善晃がなぜ『黒人霊歌集』だったのか、というのは長い間思っている謎で、東京混声合唱団の委嘱作品であり、普通の曲のようと言いながら「極めて高度な普通の曲」というか、よほどの実力があれば普通の曲として演奏できる、というような複雑さや難しさがあり、最初に挙げた高音のことも含め期するものがなくては書けない作品だと思うのだが、そこに何があったのかが分からない。

高音についてもう少し触れるが、 C が『海』や『夕焼小焼』に出てくることがよく知られているところ、『黒人霊歌集』では Cis が現れる。で、作曲年は確かこちらの方が先だったはず。

これらの高音に対して、死の向こう側、という見方をすることができるかとは少しだけ思った。シは死に通じる、というのは西村朗が『まぼろしの薔薇』でやっていたので、あるいはそんなこともあるかも知れない。『クレーの絵本第1集』では H が出てくるがこれは死を限界とする世界の音楽であることを表し、 C は死の先への思い、 Cis は死後の世界の確信、というのはどうだろう。

駄洒落はこの程度にするとして、聴くには単に楽しい曲集というところもあり、そのように聴かせることができるのも東混の実力だろう。