『平行世界、飛行ねこの沈黙』(増井哲太郎)

昨年のにっぽんの合唱オンライン・ティービーで色々と聴いた際に、この曲はタイトルのインパクトが強かったため印象に残っていた。最近になって新しめの曲も聴いてみるかと思い、動画を探し、楽譜も購入してみた。youtube の演奏がそれほど面白いと感じられず、結局『The Premiere Vol.3』も購入した。都合、聴いたのは次の3つの演奏ということになった。

何度か聴く内に思ったのが、この詩と旋律は児童合唱で歌われるべきものではないか、ということだった。もう少し言うと、少年少女合唱団の声で歌われるこの曲のイメージが強く想像されて、上記の演奏よりも正しいような気がしてきた。

この曲の4編の詩には微妙に現在・現実から間合いを取りたい気分があり、この点は若い人に好んで歌われる曲という委嘱の意図には適う気がするが、その反面で歌い手の年齢が行くほど説得力が薄れるという気がする。

曲については、楽譜の前書きに書かれている同主調の交錯などの仕掛けが表情をやや不明瞭にしているかも知れない、と感じた。このため曲を魅力的に聴かせるためにダイナミックな表現と和音に対する繊細さが必要となりそうで、これらが不十分だとぼんやりした演奏になる。この曲についてはダイナミックというの実は難しいようで、上に書いた詩の性格からバスのドスの効いた声もテナーバカの叫びも不適当という、手を縛られたような条件の下で表現しなければならない。または、ダイナミックさはピアノに全部任せるか、ということになる。そして、ここの手が打てないと和音にどれほど注意を払ってもただ微温的なだけの曲になってしまう。

上の3つの演奏の中では、神戸大学混声合唱アポロンの演奏が幾分好ましいと感じた。表現の幅が大きく、どういう曲にしたいかが分かりやすい。CANTUS ANIMAEの演奏はどことなく茶番といった印象があり、やはり若い人向けか、という印象になった。