『虹とリンゴ』について

ここの一応の目当ては、2004年に初演された三善晃の『女声合唱とピアノのための 虹とリンゴ』について何か書くことなのだった。

一通り聴けば大体思い起こせるようになるくらい明快なのに、どう受け止めて良いか分からないような、例えば理想的な演奏というのを想像しづらいような曲。それでいて、記憶の中で段々と美しいものになっていくような、とても不思議な曲でもある。

この曲のことをどう言えば良いのか、といつも思う。三善晃の曲の中でも他にあまりないほどの、異様なほどの清潔感。それこそ朝焼けのような澄明さ、花のような優美さ。流木のような、洗われ磨かれたような艶やかな曲線。作曲家の晩年の曲に時に見られるような、切り詰めた音と、新しい要素など一つとしてないのに、こんな音楽はかつてなかったと思えるようなユニークさ。

初演のプログラムに三善晃

虹の彼方に、リンゴが一つ浮かんでいる。美しく、と祈られるためのように、それは見える。

 と書いている。(CD『ヴォイスオブエンジェル3 三善晃作品集』)「美しく」と祈られてある私たち、というのがこの曲の意味の一つだっただろう。アンジェリカという、最高度の技術で美に奉仕する演奏団体への信頼と期待によって生み出された曲だろうと思う。