『三つの海の歌』

随分と前のことになるが、『三つの海の歌』と『四季に』の楽譜を、何かの折に見かけて購入した。この2曲が1冊になっている理由というのはページ数くらいしか思いつかないが。難曲中の難曲『四季に』の録音が複数出ているのに譜面上は普通そうな『三つの海の歌』が容易に聴けないのだから奇妙なものだと思う。

『三つの海の歌』は1974年が初演の曲。最近は三善晃の21世紀に入ってからの曲のことを良く考えるけれど、70年代の曲の魅力はまた特別で、否応なく引き込まれるような感じがする。この曲についても、楽譜を見ながら音をなぞってみるだけでもそれは感じられる。優し気な詩のことばと親密な感触を持つ音の並びになじむ内に、ふと気づくと後先のない不安定なところに行き着いているような、奇妙な怖さがある。この感覚が三善晃の曲に触れるということだ、と思うこともある。

とは言え、音になったものを聴かないことには分からないとも思う。優れた録音が出ることを願っている。