東京シンフォニエッタ 第53回定期演奏会

2023年7月7日(金) 19:00~

東京文化会館小ホール

今年80歳を迎える池辺晋一郎を中心としたコンサート。以前から気になっていた三善晃の『詩鏡』が演奏されるとのことで聴きに行くことにした。池辺晋一郎は合唱曲を数曲歌ったことがあり、福士則夫は『陽の扉』という曲があると聞いたことがある程度。器楽作品についてはそれぞれCDを1枚聴いたことがある。

最初の『花降る森』は「室内オーケストラのための」とされており、弦がパート1名に複数の管楽器、打楽器とハープだったか。器楽の演奏に慣れず編成を確認する習慣がないのだが、室内オーケストラというとこのような感じか、と思った。曲は鋭い音や激しい動きも要素としてはありながら、全体的には穏やかで風通しが良くやや滑稽味もある、といった感じで、以前に聴いたCDの印象に近かった。風通しが良いと書いたが、それが、音楽は演奏されているけれども聴かなくても良い、というような緩い感じでもあり、不思議な感覚だった。

室内オーケストラ、と思いながら聴きに来たにも関わらず池辺晋一郎の3曲は室内楽程度の、それぞれ数名ずつでの演奏となっていたのでやや肩透かしを食わされたような気気分になった。

最初の『うたげⅠ・Ⅱ』は歌曲で、『Ⅰ』が1964年、『Ⅱ』は1986年に追加されたとのこと。全体に気味の悪い印象があったが、「Ⅰのおどろおどろしさを中和する」とプログラムに書かれていた『Ⅱ』の方が、ヴォカリーズに奇妙な繰り返しが合わさって一層不気味さがあった。

『TANADA Ⅱ』は高音でそれぞれの楽器が特定の音型を繰り返し、それが低音へと移っていくような作りの曲で、聴いていてかなりせわしない。冒頭部分などは祭囃子のようにも聞こえて面白かった。「いわゆるミニマル・ミュージックのそれとは異なる繰り返しの理論」と書いているが、それほど区別のつくものとは思わなかった。

『君は土と河の匂いがする』ではギターが加わった。何かが起きて欲しい頃にちょうど何かしらが起こってくれる、というのが池辺晋一郎のCDを聴いた時の印象だったが、この曲はそうした印象に近かった。

三善晃の『詩鏡』だが、その前の曲の時点で背後にティンパニや、コントラバス2本が並んでおり、何か思っていたのと違っていると感じていた。実際にステージに並んだ演奏者は、弦が4-4-3-2-2、管楽器は後で紹介されたのが12名、ティンパニに打楽器(銅鑼もあった)など、素人目に普通にオーケストラなのでは、という規模だった。

先に2人の作曲家の曲を聴き、その間の違いの印象があったことから、『詩鏡』に対してもそれらとの差をまず感じた。福士則夫には聴き手に圧をかけない軽さを感じ、池辺晋一郎には場面ごとの音の充足感があった。『詩鏡』ではその場で満たされることなく、その次へ、その先へという引き立てられていく感覚、またその先に起こる何かを待ち続けているという感覚があった。解説には思想的な背景とそれを落とし込んだ音のメカニズムについて書かれていたが、そこまでを追って聴く能力はなかった。

全般的に、まずまず面白く聴くことができた。が、とにかく器楽系の演奏には慣れておらず、聴けているという気もあまりしない。こうした演奏も録音が出るとありがたいのだが。