『じゅうにつき』の楽譜を買った

混声合唱曲集 じゅうにつき』(1993)は『ぼく』『あなた』に続く、谷川俊太郎のひらがな長編詩集『みみをすます』の詩による作品で、この3曲はみな合唱連盟虹の会のために書かれた。楽譜の前書きによれた

作曲が遅れ、12曲のうち何曲かは3群・12声部の混声に書き分けることができず、通常の4声体(3群共通の楽譜)となったが、この度出版されるに当たっては、むしろ12曲ともその一般的な形にした方が、歌っていただく機会が多いかもしれないとのことで、12声部で書いたものを4声体にまとめた。

とのこと。

出版当時に楽器店で前書きを読んだ記憶はあるが、楽譜の中身は良く見なかった。12曲あるのだな、という程度で、なら1曲ずつはそれほど長くもないのだからある種小品集のような印象なのだろうと思ってきたのだが、この度楽譜を購入してざっと見渡し、かなりイメージが変わった。

楽譜の記載では全体は約28分。12曲とはいえこの長さも相当なものだが、楽譜の最初のページを見るだけでもちょっと驚く。拍子の変化もありながらの8小節の間、バスが全部休符になっている。ページを捲ってもう5小節休みで6小節目にようやく音符が現れる。そして、歌に歌詞の入るのが20小節目。

どういうことか。前奏、というべきかどうか、ともかく前奏が19小節ある。時間をカウントすると四分音符56/1分のテンポなので、バスが歌いだすまでおよそ40秒、言葉が付くまでおよそ1分。

第1曲の『ろくがつ』はこれも楽譜の記載によれば3分40秒ほどで全体の中では長い曲なのだが、それにしてもその内の40秒、1分はあまりに長い。つまりこの前奏部は『ろくがつ』の3分40秒だけでなく『じゅうにがつ』全体の前奏として配置されている。構成の大きさがここから見て取れる。

驚くポイントはそれだけではない。最初のページにバスが現れないことは書いたが、上3声を見ると全て2部に divisi している。「4声体にまとめた」というのだがこれは楽譜が4段で書かれているだけで、さらにページを捲っていくとどのパートも大概2部、時に3部に分かれている。たまにはその2部が2段に分けて書かれたり、soli が入ったりもする。合同演奏の12声部を想定して、声部が多くなる分には良し、というところがあったのか。ともあれこれは合唱団も相当の規模が必要になる。

もう一つ特徴的と言うか、自分がバスを歌うことが多いのでバスのパートに着目してみたところ、音を伸ばすところがかなり多い。長い休みも多い。全般的に伴奏風というか、分業、機能分割といった感じがある。『あなた』でも少し感じたが、12声部を扱うためにオーケストレーションに近い考え方をしたのではないだろうか。

楽譜の様子だけを3点挙げたが、このあたりからして小品集どころか巨大な音楽としか見えなくなってきた。演奏されることがあるなら聴いてみたいし、いっそ演奏する側になって、ほとんど混声八部合唱のような音のただ中にいることができたならどれほどの快感だろうか、と思う。