『ELEGIA』の楽譜を買った

「ア・アカペラ混声合唱のための」と付されている通り無伴奏の曲。出版されて間もない頃に後輩の参加していた合唱団が3曲目「春のガラス」を取り上げ、それがまだ記憶残っていた時期に大阪ハインリッヒ・シュッツ合唱団のCD『邪宗門秘曲』が出たので、妙に印象深い曲になった。それから大分時間は立ったが、楽譜を購入してみた。パートの音をなぞっていると、学生時代の楽曲への取り組み方を思い出すような懐かしい感じがあった。曲自体、間もなく作曲から四半世紀になるし、人も曲も古い、ということかも知れない。

ところで木下牧子は、決して嫌いではないがそれほど熱心には聴かずに来た作曲家になる。木下牧子についてはこの『邪宗門秘曲』のCDと『方舟』、『三つの不思議な物語』といった曲を通じて個人的なイメージというか偏見を持つようになった。「この作曲家は世の中への嫌悪、あるいは憎しみのようなものがあるのではないか」というものだ。単純な話として『方舟』は地上を捨てる歌であり、CDにある『虚無の未来へ』はさらに先、人類不在の世界になっている。話としてはこの2曲だが、そのように見る背景となった音楽の調子とすれば『三つの不思議な物語』の3曲目と、この『ELEGIA』の影響になる。

『ELEGIA』は色調の移り変わりの美しい曲で、とはいえCDでは本当にそれだけとなっていて5曲聴いても5曲分の満足感とならないところがあるのだが、それだけではなく移り変わるけれども心情的に展開していかない、という印象がある。この曲の音は常にどことなく憂鬱で、それが曲を通じても解消されることがない。聴く側は居心地の悪さが残ったまま置き去りにされ、そこに作曲者の薄い悪意が感じられる。

それが美しさでもある、というのが厄介な点で、この指向が木下牧子の透明感や憂鬱な調子、おそらく木下牧子の人気の元になった特質を生み出しているのではないかという気がする。もう少しこの作曲家を愛好する気持ちになれたなら、そのあたりの見方をまとめてみる気にもなるだろう。