『一陣の強い風がぶどうの枯葉を吹きとばし』

最近になって、萩原英彦『白い木馬』の楽譜を購入した。主には第1曲の前奏の緊張感に魅力を感じ、いつも気になっていた曲だった。『光る砂漠』と姉妹編と言ってみたり『花さまざま』を加えて遺稿詩集による三部作と言ってみたり、はたまた『深き淵より』とで三部作と言ってみたりとそのあたりの扱いは作曲者自身も案外適当ではある。

その第1曲、『一陣の強い風がぶどうの枯葉を吹きとばし』という長いタイトルの詩によるのだが、曲想の変化が極端でどこか奇怪な印象を与えられる。その大元はおそらく詩に、あるいは遺稿詩集というところにある。

今このざわめきの中で

天と地にみなぎる清冽な白い予感

この詩の最後の2行は当たり前に読み流してしまいそうだが、実は異様なことを言っている。「予感」そのものが目の前に存在している、という世界に対する特殊な感受を表している。それは死を前にした時に詩の作者が至ったもので、通常は人に通じることもなく、仮に死を間近にしたとしても誰でもがその感覚を知る訳でもない、ただこの曲に見られるような緊迫感が伝わるだけのものだろう。

作曲者は、そうした世界を捉える感覚という謎を、聴き手に向けて開いていこうとする。第2曲以降を通じて、死を目前にした孤立が聴く人の認識にまでつなげられていくことになる。