『伝説』のこと

豊中混声合唱団の委嘱で、1994年に初演された曲。楽譜が1996年に出版されていて、出版されて間もない頃に購入したが、ほぼ眺めるだけだった。

あるとき東京混声合唱団が演奏するというので聴きに行ったが、マイクを通した語りの音が大きすぎ、合唱が非常に繊細な音なのでぶち壊しになってしまっていた。その上音になったものを聴くこと自体初めてで、複雑な音を合唱団もあまり確信がなさそうに歌うので、何をやっているのか分からなかったという印象だった。

そうしてしばらく『伝説』は謎の曲として置きっぱなしになっていたのだが、思い立って豊中混声合唱団の再演時の演奏会CDを購入し、ようやく訳の分かる状態になった。

曲は、pp~fffの振幅を持ちながらも静かさと繊細さが印象に残る。拍子の変化、小節線をまたぐ言葉の配置、度々現れる3連符、5連符、7連符等が全体の拍節感をぼかしているようで、また多声部(4声それぞれがさらに3つにまで分かれる)による複雑な和音、語りと歌の間合いなどが、全体に儚い印象を与えているように思う。が、この曲を聴いた後に残るのはそうした繊細さ、儚さばかりではなく、静かな感触の不思議な堅固さがある。