大分以前のこと、気の迷いと言っては何だが、全音の『三善晃歌曲集』を2,884円出して買ったのだった。増補改訂版第1擦とのことで、内容は次の通り。
- 聖三陵玻璃
- 四つの秋の歌
- 白く
- 高原断章
- 抒情小曲集
- 三つの沿海の歌
- 越える影に
- 祈り
- 五柳五酒
- 子供の歌他
この中で『抒情小曲集』がテノール、『祈り』がバスのための曲で、『五柳五酒』と最後の「子供の歌他」とした中に『一人は賑やか』が入っているのが男声のための曲の全てになる。
『祈り』は1979年、つまり『詩篇』と同年の曲で、歌詞も宗左近、ただし『詩篇』が『縄文』による一方こちらは『炎える母』から採られている。編成がバスと室内楽、となっていて、他のほとんどが歌とピアノとなっている中で特別な形になっている。詩から取り出された4つの部分の対応してA、B、C、Dと4つの部分からなってるが、ABCは楽譜上も続いていて、Dも転換があるというだけでやはり続いていると見ることができる。
バスのパートをざっとなぞってみるだけでも三善晃の70年代、という感覚がある。Dの部分は調性感が明瞭にあって、『詩篇』の「揺れ合っている」を少し思い返す。調性が快感に異様な生々しさと気色の悪さを伴って出現する。
以前に『三つの海の歌』の録音が待たれると書いたことがあったが、その点ではこの『祈り』こそ真っ先に演奏、録音が現れて然るべきと思う。注目されるべき、重要な作品だろう。