『風に寄せて』

尾形敏幸の『風に寄せて その一』は高校時代の思い出の曲で、今でも嫌いではないが、年数が経過する内、いつの間にか馴染んでいた『その二』や『その五』の方に今は好みが移ってきた。『その一』の明るさと翳りにはどうにも「高校生が好きになる感じの曲」というところがあり、懐かしさが先立つ。それもこの曲の魅力ではあるが、そこから現在にまで届く情感を取り出す演奏が上手く想像できないでいる。

『風に寄せて』の3曲の中で、今は『その二』を最も好んでいる。以前は、冒頭の長い音符にぶっきらぼうな印象があり、曲の長さ、複雑さに取り留めのなさを感じてもいたが、近頃はこの曲の茫漠とした明るさに気持ちの安らぐ感じがする。

『その五』には音の流れの豊かさを感じるが、これはテンポの決め方にかなり依存する気がする。昔に聴いた録音がかなり良い演奏だったために興味深い曲と思っているが、悪くすると単に「よくある感じの合唱曲」としか感じなくなりそうな気がする。

楽譜の前書きに各曲の独立性ということを書いてあったが、また一方それぞれの曲が独自のカラーを持っていて、複雑さの先に各曲の明確な印象が刻まれる。気が付けばかなり以前の曲にも関わらず今も愛されるのは、そういった特徴によるのだろう。