清水敬一還暦記念演奏会

令和元年6月1日 東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル

指揮 清水敬一

ピアノ 川添文 清水史

出演団体

  • 松原混声合唱
  • 湘南市民コール
  • 町田市民合唱団
  • 女性コーラス渚
  • 早稲田大学コール・フリューゲル

曲目

  1. カンタータ『人間の顔』(Francis Poulenc)
  2. 無伴奏混声合唱のための『死者の贈り物』(新実徳英
  3. 混声合唱曲『青春』(野田暉行)
  4. 混声合唱と2台のピアノのための交聲詩『海』(三善晃

 

清水敬一の指揮による演奏は何度か聴いており、CDも数枚は手元にあるが、あまり魅力的と思ったことがない。もさっとしている、あるいはピントが甘い、というのがいつもの印象だった。きちんとした演奏をするけれども、旋律を聴かせるでもなく、言葉を訴えかけるでもなく、局面の形を明確にするのでもなければ特筆するまでの精緻さを示すのでもない。

なのでこの演奏会も関心は曲目の方にあり、『人間の顔』と『海』が聴けるのならということだった。記念の日にやや不埒な心得かもしれない。

『人間の顔』をホールで聴くのは初めてだった。この曲を歌えるというだけでも大したことであり、やや力の及ばない部分もありつつ決めるところはきちんと決めて、聴かせる演奏になっていたと思う。

『死者の贈り物』は、今回の曲目の中では譜面としてはシンプルな方だろう。新実徳英の合唱曲はいつでも良く鳴るのだが、今回の演奏はその通りにただ良く鳴っているだけという印象だった。ふわふわと柔らかい響きに清水敬一の演奏の意図が見えず、布団をノミで彫刻しようとするようなちぐはぐな感じがあった。

『青春』の歌詞は少なくとも東京周辺では全く過去の遺物としか言いようがなく、廃液汚染などすぐ行政が飛んでくるし川は暗渠になった。「村」の話も限界集落のように切り口が変わった。放送作家らしいというか、その時代を切り取った、という歌詞だろう。そうしたものへのノスタルジーはあまりないので、その点ではあまり好んでもいないし感動もしないのだが、今回久しぶりに聴いて、というか初めて実演に触れて、この曲が大変な大曲、難曲であったことに驚いた。大昔に録音で聴いて何となくかったるい曲とだけ思っていたのだった。ストレートなドラマと野田暉行の充実した音を共感をもって演奏した良いステージだったと思う。

『海』は複雑な変拍子を含む曲で、今回の演奏団体にはやや鈍重な声という印象があったので、技術的な部分で多少の不安を感じていた。実際中間の部分で時々怪しげに感じた部分もあったが、まとめ切って悪くない演奏だったと思う。

アンコールも含め、良い演奏会だった。清水敬一の演奏については始めに書いた印象が特に変化したわけではないが、難曲をそれぞれに方向性をもって形にした魅力的な演奏をしたと思う。