『さようなら』

武満徹の『さようなら』を歌ったことがあったのだが、何だかよく分からない内に練習からステージまで終わってしまった。詩も曲も印象が明瞭にならず、謎の歌というのが当時の印象だった。そしてしばらく前のことになるが、改めて詩を読み返してその奇妙さに納得した。

詩句を拾ってみる。タイトルでもある「さようなら」から始まり、「凍った」「淋しい顔」「昨日」「消えてしまう」「遠い何処か」「枯れ木」「身震い」「石のよう」「探し続けて」。

通常は否定的な意味に取るような言葉が、この詩にはこれほど注ぎ込まれている。ところがこれらの言葉は互いに打ち消し合って、詩の全体としては恋の成就を歌っているようなのだった。

武満の曲は後半で明るく軽やかな調子になる。『さようなら』の心情はだいたいそのようなものだのだろう。