『五つの唄』

この時、

 

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 『五つの唄』が出てこなかったのはどうにも恥ずかしい話だった。この曲の代表的な演奏はCD『三善晃女声合唱作品集 街路灯』のものと思うがこれがあまり好ましいと思えず、また男声合唱の出なので『紺屋のおろく』というと多田武彦の方が先に出てきてしまうために、あまりきちんと聴いていないのだった。

先のCDのブックレットに三善晃

少年時代からの多くの歳月に、白秋の韻律は私の情感を染め、それは影のように私から離れなかった。それを切り離すように――切り離すために――私は私の影を振り返った。

と書いているのだが、ここに選ばれた詩はどれもがよりにもよってというような気味の悪さを持っている。曼珠沙華の不吉さ、不義の行く末の暗示、愛情の反転などが、行き着く先もなく提示される。『あかんぼ』には1965年の文章「もしかして」にいう「もしか」に近いものがある。音楽もまたその気味悪さを描き続ける。

『紺屋のおろく』についてはどうしても『柳川風俗詩』と比べてしまうのだが、多田武彦の方が男の歌であるのに対して三善のものは少年の歌という感がある。あるいは、多田の「にくい」は強がりのようなものだが三善の方は本当に憎いという風に聞こえる。これは引用に言う「少年時代からの」歳月とつながっているかも知れない。