『方舟』(木下牧子『方舟』の4曲目)

なんとなくSF的なというか、地球が人の住めない星になって人類脱出とか、そういうイメージを持っていた時期が長かった。多分違う。
『方舟』というタイトル。もちろん「ノアの方舟」を受けているのだが、要するに脱出船で、今度は動物種が丸ごと脱出していくことになって、星座はそのために編成された船団である、という風に見立てている。「昨日の空にはためいていた見えない河原」はもちろん天の川。日常的な視点では、動物の絶滅とか大気汚染とかの話。
ところで、「ぼくら」は「さかさまになって」でないと空を歩けない、ということは「ぼくら」は地上にいる、特に「ぼく」は地上にいる。もっと言うと、地上に置き去りにされている、船団で飛び去ったものたちに、ということ。
地上に取り残されたのに、自分を捨てていった船に向かって「空を渡れ」というのはおかしい。なんでそんな、というとその心情はとりあえず「この星がふるさとであるか」ということ。「血は血を泛かべ」「河は涸れ」こんな星が、というわけで、「おれこそがこんな星から出て行ってしまいたいのだ」ということではないか。
そしてこれもなんで、といえば結局、「愛するものよ おまえの手さえ失いがちに」に行き着くのだが、これがよく分からない。ただ、この部分が「空を渡れ」という叫びの出所で、最後は底が割れた状態でこの叫びが再現されるので、「星座の船団、星座の船団、せいざのせんだーん!」とかのあたりが泣きわめくような音になっている。