『夜ノ祈リ』

死者の名で言葉を発する、というのは基本的に禁じ手というか、「生きとるやんけ」とか突っ込みが入るところだろう。三善晃はその決着のために12年くらいかけている。

『夜ノ祈リ』という詩が片仮名書きなのはこの点にまつわるトリックという面がある。

 

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 「埋メラレテイル死者タチノ」夜の祈りの聞き書きであって、自分の言葉ではない、さらに言えば自分を責める者の言葉である、という意図だろう。

歌声には平仮名も片仮名もないので、宗左近の企みも見えなくなる。結果、『夜ノ祈リ』は被害の怨念を苛烈に吐き出すような曲となっている。この曲は本当にその点だけが突出しており、余剰な色彩がない。そして非常に明晰な音でそれが響く。詩句の選択についてもどろりとした感触のある部分は除かれている。

演奏者はどのような立場となるのだろうか。ある種の演技として言葉を発することになるだろうか。その間合いは演奏の力を弱めるだろうが、見境なく詩句と一体化するのも不適切なように感じられる。