一度トウキョウ・カンタートで『王孫不帰』『オデコのこいつ』『レクイエム』を並べることをしており、自分が聴くのは抜粋ながら今回が2度目になる。当時もそのことにそれほど感心はせず、とはいえ滅多にない機会なので良しとしておく、といった気分でいた。今回は、曲目を見た段階でいくらか白けるような気持ちがあった。
書いてみると、三曲は、はからずも、私個人の小さな歴史がたどり、なぞってきたある一つの情感に添っているのだった。
『遠方より無へ』の『オデコのこいつ』の項にあるこの文が、3曲を揃える根拠になっている訳だが、3曲のつながりが三善晃にとっても事後的なものであることも伺える。それぞれの曲は相互に関係なく生み出されたのであり、「ある一つの情感」は、まず1曲ごとをそれ自体として成り立たせ、その先に見出し受け止める(あるいは単に見当たらない、ということも含めて)ものだろう。そもそも迂遠であり、あるともないともつかないものを感覚させるという困難な話なのだ。実際に行われるのは「三善先生がそのようにおっしゃっておられるので」3曲をぽんと並べ、「ある一つの情感」の所に「反戦」というラベルを貼って済ませることでしかないので、このような選曲には怪しむ気持ちが生じる。
演奏困難な曲でそこまで届かなかったというのは止むを得ないとして、今回は抜粋なので、各曲の核心を捉えなければならないはずだった。『オデコのこいつ』はストーリー仕立てでポイントは決まっているが、『王孫不帰』『レクイエム』についてはそれを取り違えていたと考える。つまり今回も揃えただけでそれ以上のことではなかった。