シャボン玉の割れる音

bungo618.hatenablog.com 三善晃の『シャボン玉』(『虹とリンゴ』)に関して、 シャボン玉が割れるような音がしたけどあれは詩のどこの部分なんだろう? と上の記事で触れられているのは、詩の最終行、曲の中でも終盤の「まるで美しいシャボン玉のように」…

『魁響の譜』(日本フィルハーモニー交響楽団 第758回東京定期演奏会)

『魁響の譜』を演奏するというので、日本フィルハーモニー交響楽団の演奏会を聴きに行った。 日本フィルハーモニー交響楽団 第758回東京定期演奏会 2024年3月23日 14:00 『魁響の譜』(三善晃) 『ヴァイオリン協奏曲第1番 op.35』(シマノフスキ) 『交響曲…

『大小』(上田真樹『そのあと』)

上田真樹の『そのあと』を練習することになり、今のところ一通りさらった段階となっている。 『そのあと』の楽譜の序文には「このところ、なんだか世の中がおかしなことになってきている。」とあり、その問題意識は特に2曲目『大小』と3曲目『十と百に寄せて…

混声合唱曲集『木とともに 人とともに』

この曲集はそれぞれ個別の経緯で書かれた3つの作品を集めたもので、3曲まとめて演奏されることもあるが1曲だけを取り上げて歌われることも多い。楽譜の序文には《谷川さんと、すべての「いのち」のために》との題がつけられ、谷川俊太郎の詩による作品である…

三善晃とピアノ作品(3)

tooth-o.hatenablog.comtooth-o.hatenablog.com 「ピアノのためだけではない作品」については、例えば『生きる』はまさにその一つだったわけだが、この曲の特殊な点は、もともとただピアノを弾いていたはずなのに結果としては合唱作品になったところにある。…

未来に伝える三善晃の世界Ⅳ

ここしばらくで三善晃の作品を扱うコンサートが幾つも開催されていた。私事の立て込む中でほとんどを逃すことになったのは残念だったが、この演奏会は辛うじて都合をつけることができた。とはいえこれだけの曲を演奏するというのは普通にはない機会であり、…

三善晃とピアノ作品(2)

tooth-o.hatenablog.com 1990年代最後の日、逝った友人たちを想いながらピアノを弾き続けているうちに、その音の流れのなかに谷川さんのこの詩の詩句が聴こえてきた。 曲集『木とともに 人とともに』の楽譜の序文に書かれた、この『生きる』の成立事情が興味…

三善晃とピアノ作品(1)

ピアノは弾けないしそれほど聴くこともないのでこのようなお題を掲げるには向かないのだが、少し思うことがあったので書いてみる。 きっかけはコンサート「未来に伝える三善晃の世界Ⅳ」の案内が届いたことで、今回はピアノ独奏のための作品を集めて開催され…

『さまよえるエストニア人』(『蜜蜂と鯨たちに捧げる譚詩』)

三善晃の拍子や連符などによる象徴的な表現や描写などについては何度か触れてきた。 tooth-o.hatenablog.com tooth-o.hatenablog.com こうした観点から『さまよえるエストニア人』の楽譜を眺めたとき、「彼の背中には/羽が生えている」に現れる五連符がまず…

『詩篇』Ⅴ.途中の途中・滝壺舞踏

東京都交響楽団の演奏は、合唱のリズム感がやや鈍い印象があった。特に、標題のセクションではリズムに乗り切れていないというか、口が十分に回っていないように感じられた。 https://www.youtube.com/watch?v=UZtIiWtHrLE&t=1166s そうした状態で演奏として…

『レクイエム』のテキストについて

tooth-o.hatenablog.com 日本現代音楽協会『NEW COMPOSER Vol.13』に載せられた三枝木宏行氏の記事は、三善晃の『レクイエム』に取り上げられたテキストに対し、出典における本来の意図や意味を確かめ、曲の中での扱いと照らし合わせるものだった。 一方、こ…

『ぼく』『あなた』『じゅうにつき』(2)

tooth-o.hatenablog.com 「複合唱的な性質が後退していく」と書いたが、このことについて詩の側から見るとどうなるか。 『ぼく』の場合、詩は人生の場面が「もういいかい」によって区分される構成となっており、その両端に人生の内部ではない場面が現れる。…

『ぼく』『あなた』『じゅうにつき』(1)

谷川俊太郎の詩集『みみをすます』による3曲。これらは三つの大学合唱団から成る「合唱連盟虹の会」の合同演奏のために書かれた作品であり、『ぼく』『あなた』は「三群の混声合唱体とピアノのための」となっているが、『じゅうにつき』ではピアノは用いられ…

東京シンフォニエッタ 第53回定期演奏会

2023年7月7日(金) 19:00~ 東京文化会館小ホール 『花降る森』(福士則夫) 『うたげⅠ・Ⅱ』(池辺晋一郎) 『TANADA Ⅱ』(池辺晋一郎) 『君は土と河の匂いがする』(池辺晋一郎) 『詩鏡』(三善晃) 今年80歳を迎える池辺晋一郎を中心としたコンサート…

『五つの童画』メモ

完全四度/完全五度の強調は見て取りやすい。例えば『ほら貝の笛』を除いて全ての曲が空虚五度になっており、『ほら貝の笛』についても最後の音は D-A-E すなわち二つの完全五度を重ねたものと見ることができる。 この他にも、各曲のセクションの始めや終わ…

都響の三部作に関する文章3つ

tooth-o.hatenablog.com このコンサートに関係する文章を三つほど見かけ、どうにも気分が悪くなったので書いておく。 まずは片山杜秀。紙面で読み、完全に文章が一致しているかは不明。 三善晃が再会したかった「分身」とは 片山杜秀さんが聞く反戦三部作:…

今年の5月のこと

今年は三善晃の生誕90周年、没後10周年ということで多方面で取り上げられているが、この5月に色々と集中したのにはゴールデンウィークがあったとはいえまいった。自身のスケジュールとすれば混声六連から、トウキョウ・カンタート、都響の三部作と3つの演奏…

『風見鳥』(『五つの童画』)

『五つの童画』を聴いて納得したことがない。名だたる合唱団が多くの演奏を残している曲で、CDもそれなりに所持し、何度かは直接演奏会で聴いたこともあるが、歌ってはいるもののどのように聴かせたいのか分からない。この組曲では作曲者の書いた「どの詩に…

『街路灯』終盤あたりの話

『街路灯』について、今年は篠田昌伸の和声分析 三善晃「街路灯」和声分析 - YouTube や、合唱連盟の会報ハーモニーでの鈴木輝昭の分析 ハーモニー過去の内容 No204 2023年 を見ることができている。気ままに眺めているだけの身ではあるが、大変にありがたい…

『地球へのバラード』での『私が歌う理由』

「歌う」ということについて、『私が歌う理由』と『鳥』の対照が成り立つ。 私が歌うわけは/いっぴきの仔猫(『私が歌う理由』) 鳥は歌うことを知っている/そのため鳥は世界に気づかない(『鳥』) また、『沈黙の名』と『鳥』は「名」について語る。 名…

2つのコンサートの解説について

tooth-o.hatenablog.com tooth-o.hatenablog.com くだらないものを読む羽目になった、というのが、これらのコンサートのパンフレットの印象だった。丘山万里子の解説は、目を通すのも辛いほどのものだった。 「盗んだりんごを妹から隠した」などというしょう…

「鏡の底」と「海の中の暁」

tooth-o.hatenablog.com tooth-o.hatenablog.com 『詩篇』で扱われた詩の言葉について。「鏡の底」は「Ⅶ はじめとおわりの・鏡の雲」に「きみたたち 鏡の底にいるのか」と現れる。また、「海の中の暁」は「Ⅷ おわりのないおわり・波の墓」で「海の中の暁/暁…

トウキョウ・カンタートでの三善晃の作品の扱いについて

tooth-o.hatenablog.com 経緯や内実は知らないが、トウキョウ・カンタートは早い時期から三善晃との関係が深く、パンフレットを見ると三善晃の作品を集めたコンサートをかなりの回数行っている。亡くなってから行われたものとしては前回2016年、そして今年が…

『詩篇』まで

「弧の墜つるところ」に言うように、死者の仲間であろうとした『レクイエム』が死者の仲間でありえないことを示してしまった。そこから、なお生きている人間として、死者たちへと答えを返さなければならない、となるのは話としては難しくはないだろう。特に…

『レクイエム』とその他のこと

「誰がドブ鼠のように隠れたいか」の言葉を客席に投げつける時の快感について、考えることがある。 「レクィエム」を書き終えたとき、それによって死者たちと終に仲間になれない自分の輪郭を描き終えてしまったことに気付いたことを言いたかったからである。…

2つのコンサートについて

『詩篇』をどのように把握するかが問題なのだろう。 tooth-o.hatenablog.com tooth-o.hatenablog.com 都響の『詩篇』、「Ⅷ おわりのおわり・波の墓」が「ゆれあっている/ゆられあっている」と歌い出したときのpp(楽譜の指定は未確認)に、少し白けるような…

「反戦」三部作

三善晃の三部作の頭にどのような言葉を付けるか、という話が昔からあるようで、「生と死の」など見かけたことがあるし、『レクイエム』のピアノリダクション版では前書きに「合唱と管弦楽のための三部作」と書いている。 今回の東京都交響楽団の演奏会では「…

東京都交響楽団第975回定期演奏会Aシリーズ 三善晃生誕90年/没後10年記念:反戦三部作

2023年5月12日(金) 19:00開演 東京文化会館大ホール 東京都交響楽団 指揮:山田和樹 混声合唱とオーケストラのための『レクイエム』(1972) 混声合唱とオーケストラのための『詩篇』(1979) 合唱:東京混声合唱団(合唱指揮:キハラ良尚) 武蔵野音楽大…

Tokyo Cantat 2023 やまとうたの血脈XII  地球へのバラード~傷みの泉から祈りの声を~(5)

tooth-o.hatenablog.com tooth-o.hatenablog.com tooth-o.hatenablog.com tooth-o.hatenablog.com この演奏会の全体を思い返すと、まずは演奏のレベルの高さが印象に残った。不満も多々書いたが、それもまずは演奏が高水準で成立した上での話であって、その…

Tokyo Cantat 2023 やまとうたの血脈XII  地球へのバラード~傷みの泉から祈りの声を~(4)

tooth-o.hatenablog.com tooth-o.hatenablog.com tooth-o.hatenablog.com 『地球へのバラード』より『私が歌う理由』『沈黙の名』『夕暮』 (Chœur Clarté) コンサートの表題にされた曲集より3曲が、冒頭と休憩後の最初に演奏された。ステージとは別に、2階…